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公開日:2023.08.15
更新日:2023.08.18

外国に特許出願する方法!パリルートとPCTルートの違いを比較してみた

1.なぜ2つのルートがあるの?

理由は、パリルートとPCTルートがそれぞれ異なる条約を根拠としているからです。具体的な手続きは互いに異なりますが、いずれも国内出願に基づいて外国へ出願する場合に12か月の猶予期間(国内基礎出願に基づく優先権を主張可能な優先期間)を設けることで、基本的に早い者勝ちの特許を自国以外でも取得し易くしています。

パリ条約に基づく出願(パリルート)

工業所有権の保護に関するパリ条約(通称:パリ条約)に基づき、特許等を取得したい外国に直接的に出願するために設けられた制度です。

PCT出願(PCTルート)

特許協力条約(Patent Cooperation Treaty、通称:PCT条約)に基づき、条約加盟国すべてに対して一度に出願できる制度です。なお、PCT条約はパリ条約の特別取極(特別法のようなもの)として生まれました。

 

2.具体的にどう違うの?比較してみた

では、2つの出願ルートの具体的な違いについて比較してきます。

2-1.出願のスケジュールについて

(1)基礎出願があり、優先権の主張を行う場合

<パリルート>

日本に出願した出願(基礎出願)の出願日から優先期間の1年以内に、外国に出願する必要があります。

<PCTルート>

日本に出願した出願出願(基礎出願)の出願日から優先期間の1年以内に、日本の特許庁等の受理官庁にPCT出願を行う必要があります。その後、基礎出願の出願日から30か月以内に、権利を取得したい国へ個別に移行手続きを行う必要があります。

(2)優先権の主張を行わない場合

<パリルート>

任意のタイミングで出願を行います。

<PCTルート>

任意のタイミングでPCT出願を行った後、PCT出願の日から30か月以内に、権利を取得したい国へ個別に移行手続きを行う必要があります。

2-2.出願方法について

<パリルート>

出願したい各国特許庁へ個別の出願が必要です。出願時までに、原則として各国の審査に必要な出願書類の翻訳文等を用意する必要があります。ただし、日本語による出願が認められている国(米国やドイツ等)では、出願後に翻訳文を提出することが可能です。

<PCTルート>

日本国特許庁へ出願することで、条約に加盟している全ての国に対して出願したのと同じ効果が得られます。出願時点では、各国の審査に必要な出願書類の翻訳文等は必要ありません。

2-3.審査について

<パリルート>

各国の法律に基づき、各国特許庁で個別に審査が行われます。

<PCTルート>

各国の法律に基づき、移行手続きを行った各国特許庁で個別に審査が行われます。ただし、出願から一定期間後に、「新規性」「進歩性」「産業上の利用可能性」の要件を満たすかどうかの見解が記載された国際調査報告書を受領することができます

 

3.それぞれの方法のメリットとデメリットとは?

なんだかPCTルートの方が圧倒的に良さそうという印象が強いですが、どちらの方法にもメリットとデメリットが存在します。

3-1.パリルートについて

  • メリット①PCTルートよりも早い権利化が期待できる

直接外国に出願するため、より迅速な権利化が期待できます。

  • メリット②出願国が少数の場合、費用が安く済むことがある

PCTルートでは、基礎出願の後にPCT出願を行い、さらにその後、各国に移行する必要があります。また、PCTルートでは出願から一定期間後に国際公開や国際調査報告の受領等、パリルートには無いアクションがあります。そのため、特に出願国が少ない場合には、パリルートの方がトータルの費用が安く済む場合があります。

  • メリット③出願書類の内容を国ごとに変更できる

PCTルートでは、全ての国に同一の出願書類により出願することになります。一方、パリルートでは、各国の法令や戦略に応じて明細書や請求の範囲等の記載を他国と異なる最適な状態にして出願することができます。

  • デメリット 出願国が多い場合、出願手続きが煩雑かつ費用が高額になる

優先権主張を行う場合、全ての国に基礎出願から1年以内に出願を行う必要があるため、出願国が多い場合には翻訳や書類の準備に追われることになります。また、出願費用だけで高額になる場合があります。

3-2.PCTルートについて

  • メリット①一度の出願で多数の国に出願する効果が得られる

権利を取得したい国が多数であっても、出願手続きは一度で済みます。そのため、多数の国で権利を取得する予定がある場合は、出願手続きにかかる時間や費用を節約することができます。

  • メリット②各国移行までの期限が30か月ある

PCT出願後に権利を取得したい国へ個別に出願の移行手続きを取る必要がありますが、その期限は基礎出願から30か月です。したがって、パリルートよりもゆっくりと移行の検討や費用の調達を行うことができ、出願書類の翻訳期間や追加で必要な書類の準備期間も長くなります。

  • メリット③国際調査報告を受領することができる

各国へ移行する前に、新規性、進歩性、産業上の利用可能性についての可否が記載された国際調査報告を受領することができます。報告書にはそれらの要件の検討時に用いられた文献も記載されており、各国での審査も国際調査報告を参考にしていることが多くあります。したがって、国際調査報告の内容を見たうえで、各国への移行を再度検討することができます。

  • デメリット PCT条約非加盟国には利用できない

PCT条約の非加盟国には出願することができません。したがって、出願したい国にPCT非加盟国が含まれている場合は、その国だけパリルート等を使用する必要があります。

最新のPCT加盟国は特許庁HPの「PCT加盟国一覧表」のページをご確認ください。

 

4.どのように使い分けるべき?

では、パリルートとPCTルートをどのように使い分けるべきでしょうか?

4-1.考慮すべき3つの観点

(1)出願国数で選ぶ

出願国が少ない場合(目安:~3か国未満)はパリルート、出願国が多い場合(目安:3か国以上)はPCTルートがお勧めです。

PCTルートは、各国に移行する前に受理官庁へPCT出願を行う必要があることから出願費用が高くなる傾向にあり、出願国が少ない場合にはパリルートよりも割高になることがあります。

なお、現在のPCT出願費用は特許庁HPの「国際出願関係手数料表」のページをご確認ください。

(2)権利取得を急ぐかどうかで選ぶ

権利取得を急ぐ場合はパリルート、多少時間がかかってもよい場合や検討中の場合はPCTルートがお勧めです。

迅速な権利化を希望する場合は、権利取得したい国に直接出願するパリルートを選択する方がよいでしょう。一方、現在は資金や戦略の準備段階という場合、PCTルートによって出願しておけば少し余裕をもって検討することができます。

(3)特許性に対する見解によって権利取得国を決定したいかどうかで選ぶ

特許性についてあまり期待できない場合は権利取得国を減らしたり権利取得を断念したりする場合、PCTルートを選ぶのがよいでしょう。

PCTルートでは、出願後に受領する国際調査報告の「新規性、進歩性、産業上の利用可能性」についての見解を見てから各国に移行するかどうかを決めることが可能です。

少し後ろ向きな戦略ですが、国際調査報告の内容が芳しくない場合には各国へ移行しないという選択肢を取ることで、その先の各国での審査でかかるはずの費用を抑え、PCT出願費用のみで済ませることができます。

 

4-2.まとめ

ここまでの話を簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 特許を外国に出願する方法は、パリルートとPCTルートがある
  • PCTルートは準備のための猶予期間が長いが、出願国が少ない場合は割高
  • パリルートは迅速な権利化が期待できるが、準備のための猶予期間が短い
  • PCTルートを選ぶことで、権利取得国への移行前に国際調査報告を受領することができる

外国出願は国内出願よりも費用や時間がかかります。外国出願をご検討の場合、よりスムーズに手続きを進めるためにも、是非ご相談ください。ご相談はこちら

弁理士 由利 尚美

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