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公開日:2023.08.29
更新日:2023.08.29

「発明の詳細な説明」とは?

 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)は、特許請求の範囲の記載について、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を求めています。しかし、願書に添付する明細書等には、「発明の詳細な説明」という見出しの項目はありません。「発明の詳細な説明」とは何でしょうか?

1.「発明の詳細な説明」と「明細書」の違い

 特許法第36条第3項には、以下のように記載されています。

   3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
  一 発明の名称
  二 図面の簡単な説明
  三 発明の詳細な説明

 従って、明細書における「発明の名称」と「図面の簡単な説明」以外の部分は、「発明の詳細な説明」だと言えます。

 さらに、同法第36条第4項は、発明の詳細な説明に、当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に発明を記載することと、出願時に知っている文献公知発明を記載することを規定しています。

 

2.なぜ、サポートを記載するべき箇所は「明細書」ではなく「発明の詳細な説明」なのか?

 日本の弁理士であれば、請求項に記載したことや補正により請求項に追加するかもしれないことは、「発明の詳細な説明」に記載します。しかし、外国で作成された国際特許出願(PCT出願)の明細書の中には、実験結果を示すグラフ等の説明が、「発明を実施するための形態」や「実施例」よりも、「図面の簡単な説明」に詳しく記載されていることがあります。

  「図面の簡単な説明」にのみ記載されていることを、請求項に追加する補正を行う場合、サポート要件を満たすためには、その「図面の簡単な説明」の記載を、「発明の詳細な説明」に記載する補正も必要となります。仮に、特許請求の範囲のサポートを記載すべき箇所が「明細書」であれば、このような手間はかからないのですが、特許請求の範囲のサポートを記載すべき箇所が、「明細書」ではなく「発明の詳細な説明」であるのはなぜでしょうか。

  特許請求の範囲のサポートを記載すべき箇所が、「明細書」ではなく「発明の詳細な説明」である理由について、公式の見解は見つけられませんでした。しかし、これは、「特許請求の範囲」が「明細書」の一部であったころの名残ではないかと推察されます。

  2002年(平成14年)の法改正前の特許法では、「特許請求の範囲」は明細書の一部でした。2002年の法改正により、特許請求の範囲は、明細書から分離し、独立した書類となりました。

 「特許請求の範囲」が明細書の一部であった頃は、特許請求の範囲のサポートを記載すべき箇所が「明細書」であると、明細書には特許請求の範囲が記載されているため、形式的にはサポート要件が常に満たされているように見えます(実際には、特許請求の範囲と同じ文言が「発明の詳細な説明」に記載されているからと言って常にサポート要件が満たされるわけではなく、課題解決手段が請求項に反映されているか等も考慮されます)。

 このように、2002年の法改正前は、明細書における「特許請求の範囲」以外の部分の主要部を「発明の詳細な説明」と呼ぶことに実益がありました。

  2002年の法改正時に、特許請求の範囲のサポートを記載すべき箇所を「発明の詳細な説明」から「明細書」に変えても良かったように思えます。しかし、「発明の詳細な説明」という用語が定着していたことを踏まえると、わざわざ変更する必要性が乏しかったため、「発明の詳細な説明」という用語が残されたと推察されます。

 

3.なぜ、「図面の簡単な説明」は「発明の詳細な説明」を分断するように配置されたのか?

 願書に添付する明細書には、「発明の詳細な説明」という見出しの項目はありませんが、特許公報や公開特許公報では、明細書における「発明の名称」以外の部分の先頭に【発明の詳細な説明】という見出しがついています。しかし、「発明の詳細な説明」ではない【図面の簡単な説明】が、「発明の詳細な説明」の一部である【発明の概要】と【発明を実施するための形態】の間に配置されています。このため、「図面の簡単な説明」が「発明の詳細な説明」を分断しており、「図面の簡単な説明」が「発明の詳細な説明」の一部のように見えてしまいます。なぜこのような配置なのでしょうか。

  2002年の法改正直後は、【図面の簡単な説明】は、明細書における最後の方に記載されていました。このため、齟齬は目立ちませんでした。

  その後、日米欧の三極特許庁間で合意した、三極いずれの特許庁にも出願することができる共通の明細書等の様式が導入されることになり、2008年(平成20年)の特許法施行規則の改正により、明細書の記載順序が現在(2023年)のようになりました。

 このように、日米欧に共通の明細書様式の導入により、「図面の簡単な説明」が「発明の詳細な説明」を分断するような配置となりました。

 

4.まとめ

 発明の詳細な説明について、ここまでの話を簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 「発明の詳細な説明」とは、明細書における「発明の名称」と「図面の簡単な説明」以外の部分と言える
  • 法改正や規則改正後も、「発明の詳細な説明」という用語が残り、現在の形になった

 弁理士 高尾 智満

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