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公開日:2024.01.24
更新日:2024.01.24

職務発明とは?その法的な取り扱いって?

従業員が行った発明について特許を取得したい場合、その発明に関する権利はどのように取り扱うべきなのでしょうか?
ここでは、職務発明とはどのようなものか、その法的な取り扱いはどのようになっているのかをご説明します。

1.職務発明とは?

1-1.従業員が行った発明の全てが「職務発明」ではない

従業員が行った発明であれば全てが職務発明になるかというと、そうではありません。企業等に所属する従業員が行った発明は、業務範囲との関係で以下のように分類することができます。

  • 職務発明

    その発明が使用者等の業務範囲に属し、発明をするに至った行為が従業員の現在または過去の職務に属する発明を指します。
    例えば、文具メーカーの研究員がよく切れるハサミの発明をした場合は、職務発明に該当します。

  • 業務発明

    その発明が使用者等の業務範囲に属するが、職務とは無関係に行った発明を指します。
    例えば、文具メーカーの経理担当者がよく切れるハサミの発明をした場合は、業務発明に該当します。

  • 自由発明

    その発明が使用者等の業務範囲にも属しない発明であって、職務とも無関係に行った発明を指します。
    例えば、文具メーカーの研究員が省エネ効果の高い電球の発明をした場合は自由発明に該当します。

従業員が行った発明は上記のように分類することができますが、特許法においてはこのうち職務発明についてのみ規定されています。

1-2.職務発明の権利関係は、やや特殊なもの

従業員が職務として行った発明ならば、当然その発明は企業(使用者)のものになるのではないか?と思う方もいるかもしれません。しかしながら、特許法上の発明者の地位を考えると、職務発明から生じる権利はやや特殊なものであり、わざわざ定めておく必要があるものです。

特許法では、特許を取得することができる者は発明者とされています。この発明者は自然人に限られているため、企業等の法人は発明者にはなり得ません。これは企業等に所属する従業員が発明者となる場合であっても同様です。
そして、発明者には原始的に「特許を受ける権利」が帰属しており、この特許を受ける権利は移転可能な財産権となっています。

このように、特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属するという原則を考慮すると、企業(使用者)等が特許を取得するためには、特許を受ける権利を発明者である従業員から譲り受ける必要があります。しかしながら、従業員が発明を行った際に毎回使用者等に特許を受ける権利を譲渡するのは大変ですし、権利関係が複雑になる恐れがあります
また、特許を受ける権利を使用者等に譲渡するにしても、職務発明を行った従業員に対しても正当な報酬が支払われるべきです

原則通りに処理すると色々な不都合が生じるため、特許法では第35条に職務発明制度についての規定を設け、職務発明における権利や報酬の取り扱い等について定めています。

2.職務発明の法的な取り扱い

以下では、職務発明の法的な取り扱いについて定めた職務発明制度についてご説明します。

2-1.職務発明制度の概要

職務発明が特許権になった場合、使用者等はその特許権について通常実施権を有する

従業員(または特許を受ける権利を承継した者)が職務発明について特許権を取得したとき、使用者等がその特許権についての通常実施権を有することを定めています(特許法第35条第1項)。

通常実施権とは、独占的ではない使用権のことです。特許法第35条第1項によって発生する通常実施権は、特許権の付与と同時に自動的に発生する実施権(「法定実施権」ともいいます)であり、公平の観点から無償での特許発明の実施が認められています。
職務発明を行う際には企業等のリソースを使用することになると思いますので、これはそのような使用者等の貢献に対する対価といえます。

職務発明についての特許を受ける権利が発生した瞬間から使用者等に帰属させることができる

契約や勤務規則で定めておけば、職務発明についての特許を受ける権利を使用者等に原始的に(=発明が完成するのと同時に)帰属することが可能であることを定めています(特許法第35条第3項)。

これは平成27年度に改正された条文であり、それ以前も契約や勤務規則などで定めておくことにより、使用者等に特許を受ける権利を承継させることは可能でした。
しかしながら、そのような定めがあっても、特許を受ける権利が従業員に一度帰属する以上、特許を受ける権利の二重譲渡などが問題となっていました。本項は、そのような権利の不安定性を解消するために改正されました。

従業者は、職務発明について使用者等に特許を受ける権利や特許権を取得させたときは、相当の利益を受けることができる

従業者のインセンティブに関する規定が定められています(特許法第35条第4~7項)。従業者が職務発明に関する権利を使用者等に取得させたときは金銭に限らず相当の利益を受けることができるとされており、この相当の利益は不合理であってはならず、使用者等の負担や貢献等も考慮しつつ慎重に定めることが義務付けられています。

なお、金銭以外の利益の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 使用者等が負担する留学の機会の付与
  2. ストックオプションの付与
  3. 金銭的処遇の向上を伴う昇進や昇格
  4. 法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与
  5. 職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定または通常実施権の許諾

2-2.退職者の取り扱いについて

では、退職者が発明者である場合はどうなるのでしょうか?
現在多くの企業では、職務発明についての特許を受ける権利を使用者に原始的に帰属させるようにしていると思われます。したがって、多くの場合、発明が完成した後すぐの退職である場合には、特許法第35条が適用されます。
ただし、従業員に支払われる相当な利益については、退職時にまとめて支払われるのか、退職後も継続的に支払い続けるのか、それとも退職後は支払わないとするのか等、トラブルにならないように予め定めておくことが大切です。

一方、発明が未完成の状態で発明に携わった従業員が退職し、退職後に発明が完成した場合については第35条の適用が難しく、問題が生じる可能性があります。従業員が退職するタイミングでどの程度発明が完成しているかにより、退職前の企業(使用者)等の発明への貢献度も異なると思われますので、こちらも事前に定めておくことや、問題が生じる前に契約等を取り交わしておくことが考えられます。

2-3.職務発明ではない場合の取り扱いについて

では、1-1.で説明した「業務発明」や「自由発明」の場合はどうなるのでしょうか?

特許法では、職務発明を除き、予め使用者等が従業員に対して特許を受ける権利を承継させることや、専用実施権(独占的な使用権)を設定させることを仮に就業規則などで定めたとしても、無効としています(特許法第35条第2項)。

したがって、職務発明ではない業務発明や自由発明についてはこの規定が適用されるため、「予め」使用者等に特許を受ける権利を承継させることや専用実施権を設定させる契約や勤務規則等を定めることはできません。

なお、発明が完成した後において、当事者間の契約により特許を受ける権利を承継することや、専用実施権の設定を行うことについては問題ありません。

3.まとめ

職務発明についてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。

今回のポイントは、以下の通りです。

  • 職務発明とは、従業員等が行った発明のうち、使用者等の業務範囲に属し、発明をするに至った行為が従業員の現在または過去の職務に属する発明を指す
  • 職務発明が特許権になった場合、使用者等はその特許権について通常実施権を有する
  • 契約や勤務規則での定めにより、職務発明についての特許を受ける権利が発生した瞬間から使用者等に帰属させることができる
  • 従業者は、職務発明について使用者等に特許を受ける権利や特許権を取得させたときは、相当の利益を受けることができる

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弁理士 由利 尚美

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